湘南移住記 第二十九話 「ぬがぁ」

3月の鎌倉視察をいったん中断して、リアルタイムへ戻ります。

私と女将は、3匹の猫を飼っている。灰色のリプニツカヤ♂と牛柄のアストラッド♀と、女将がもらってきたマーレ♂。昨年の6月、鉄板BAR RYOさんでもらってきた。彼らとの共同生活も1年近くになる。

3月後半。アストラッド♀が家出をして、1週間帰ってこなかった。私は半ば諦めていてた。事故に遭ったのだと思い、悲しんでいた。女将は諦めずに「アスちゃん」と近所を探し回っていた。その様子を見ていると、さらに物悲しかった。

苦肉の策で、インスタのストーリーでアスの写真を投稿した。すると、近所の人から返信があった。駅前の中国テントの駐車場にいたらしい。女将とすぐ向かった。駐車場の隅に、痩せ細ったアストラッドがいた。保護し、家に連れ帰った。アスが、リプとマーレと対面した時は、女将と共に涙を流した。

餌をやって、しばらく様子を見ていたが、どうも呼吸の様子がおかしい。しかも尿道から出血している。その日の晩6時を回っていたので、キャリーケースに入れてグリーンヒルズの動物病院に連れていった。慌てて行ったのでマスクをしておらず、男性の医者に怒られる。診てもらうと、キャリーケースの中に小さな子供がいた。アスは出産していた。だが、未熟児で死んでいた。レントゲンで見てみるとお腹には赤ちゃんがいないようだった。恐らく外に出ている時にも産まれたが、死産してしまったのだろう。ごめんアス。見つけるのがもう少し早ければ、子供を授かっていたかもしれないのに。

その病院で、他に変わった様子はないです、と言われ帰った。しばらくウチでご飯も食べていて体重も戻ってきた。だがやっぱり呼吸の様子がおかしい。おしゃべりな子だが、鳴かなくなった。女将の発案で、文化センターの近くにある獣医科病院に連れていくことにした。

その病院では、女性の医師に診て頂いた。この子は人懐っこいわねえ、と先生が話すと、女将が居酒屋で産まれた子だからですかねと答えた。まあ、そうなの。じゃあシャンパンっていう名前にすればよかったのに。居酒屋でシャンパンというのがお医者さんの裕福さを物語っていた。

検査をしてみると、アスは横隔膜ヘルニアと診断された。家出中に事故に遭い、横隔膜が心臓のすぐそこに来ている。なので呼吸を肺でなく腹でしていて、普通でない様子だったのだ。

ただ先天性、つまり生まれつきの可能性もあるので、2週間ほど経過してまた検査することになった。そして昨日。マーレとリプとでケンカするようになるくらい体重も健康も戻ってきたので、再び獣医科へ。レントゲンを撮り、お医者さんから説明を受ける。

「やっぱり後天性の横隔膜ヘルニアです。手術を受ける必要があります。鳥取大学に紹介します。手術には20〜30万円の費用がかかります」

うおおおおおおおおおおおお

手術したら、良くなる。リスクはあるが失敗例は少ない。手術一択である。だが、その手術代は貯めておいた移住費をほぼほぼ吐き出す形になる。

記事にしようと思っていたが、物件は決まりかけていた。鎌倉駅の小町に、短期だが好条件の物件を見つけて、5月に内見しにく予定だった。もう一つ、茅ヶ崎にこれまた猫の多頭飼いがオッケーの物件、しかもジモティーで大家直案件なので初期費用が20万円以下、しかも茅ヶ崎でも南湖というアッパークラスが住む地域の物件も話を進めていた。残念ながら後者は他に申し込みが入ってしまったが、鎌倉の物件を見つけてなければそこにしていただろう。ともかく、話は決まりかけていたのだった。

手術はする。アスは大切な家族だ。ただ、お金が再びゼロになる。実は3日前にお金のことで女将とケンカになり、もう別れるか、というところまで行った。だがなんとか持ち堪えて、その翌日にこの事態になった。女将が大泣きした。

女将とも話し合ったけど、相続の件も含めて自分の人生の大波に付き合わせて申し訳なかった。状況が二転三転して、すぐ対応しなければ、変化しなければならない。女将の心の面も心配だ。

とは言っても、前に進むしかない。移住は決めている。移住後の起業プランを練っていたところでもあった。事故に遭って、手術をすれば治るというのも、ちょうど手術代の現金を持っていたのも不幸中の幸いだ。お金はまた作ればいい。

私もさすがに焦る。自分の選択とはいえ、店を閉めることにして、移住もなぜこんなにスムーズにいかないのか。まだ書いてないが相続でも一悶着あり、どんどんどんどん出来事が舞いこんでくる。水瓶座の木星土星期とはいえ、あまりにもあまりなので、加茂のサムハラ神社に行くことにした。

アスとマーレ。命には変えられない

サムハラ、奥の院

ちょうどサムハラに行きてぇな、と思っていて、ヨガの先生をしているヨシさんも行っていたところをインスタで見て、いいタイミングだった。引き寄せが早い。2人で加茂に向かった。以前1人でもいったが、再度行き直すと、以前行ったのはどうも違う場所のようだった。

サムハラ奥の院に着くと、女将がいきなりスイッチが入る。

「ねぇ、生ジャンガリアンハムスター欲しくない?それとも、生ゴールデンハムスターがいい?生ジャンがいいのか、生ゴーがいいのか」

読者のみなさんはこの言葉の意味がわかるだろうか?私にはさっぱりわからない。ただ、こういったことをずっと言っているのである。鎌倉の時と一緒だ。わかったのは、女将がスイッチが入るのはパワースポットなのだ。つまり、女将がスイッチが入る場所にいればいい。女将は天然のパワースポットレーダーだった。

サムハラの後、私の家の墓も参った。邪気祓いのマントラも唱えるようになった。少しは事態が好転するだろうか。

方針の変更

とりあえず、状況に対応して行動を変えるしかない。鳥取大学に入院するとなれば、津山にいなければならない。もう2か月はいることにした。その間、女将と稼ぐだけ稼ぐことにする。

女将は今の仕事をやめ、時給の高い派遣に切り替える。私も津山で時給の高い短期の派遣をすることにした。1人だけ先行して、横須賀に月給34万円の派遣があったので行こうとしたが、女将1人にアスの面倒を見てもらうわけにもいかないし、やめた。さすがに出れなさすぎて焦っているが、もう仕方がない。5月には出るつもりだったが、7月になるかもしれなかった。

5月までに店を限定でやろうと考えていた。ひさしぶりににペルーの生豆を買って、女将と2週間焙煎をし続け、これはお客さんに出せる、という豆が焼けたところだった。

またゼロからである。でももうやることをやるしかない。5月のゴールデンウィークのあと鎌倉の物件を内見に行くことにはした。カナリーという、スーモには表示されない物件が出て来る面白いアプリも見つけた。これはオススメです。だが、私についた担当は対応があまりよろしくなかった。

桶屋町の千代堂で、桜餅と梅よろしを買った。女将がこの1ヶ月、桜餅のことが頭にあると中山家の墓参りの帰りに話したからだ。家に持ち帰って、自分たちが炒った珈琲豆を淹れてお茶をした。それが仲直りになってくれたらよかった。この2ヶ月、一緒に頑張ろうと言う気持ちを伝えたかった。珈琲は、レモンティーやシロップの風味がでている中煎り。苦みを抑えている。女将がうまく焼いたものだった。梅よろしはさわやかな梅が丸ごとひとつ入っていて、珈琲にペアリングしている。千代堂の店員さんに、「うちの桜餅はスーパーと違って、この時期しか作らないんです」という言葉に温かさを感じた。

この豆はかつてインカ帝国があったアンデス山脈から来ている。山から港まで、1500キロの行程を行く。珈琲豆の栽培は高地であればあるほどいいとされているが、実際はとても過酷な環境だろう。1500キロというのは津山から東京までの往復に等しい。実際に車で行ったので、その労苦が想像できる。そんなペルーの豆が、日本の私たちの縁を取り持ってくれたのは、考えてみると不思議な事だ。珈琲がもつ大きなストーリーを感じた。大きすぎて、物語と気づかないくらい。

この2日、女将と泣くだけ泣いた。ので、前に進むのみ。5月には行くと話していたけれど、遅れます。すいません。

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