湘南移住記 第三十一話 「お金」

応募先に連絡した。まず、入社説明会にいかなければならないらしい。場所は文化センター。入社説明会というものにも、改装後の文化センターにも行くのも初めてだった。履歴書はいりませんが、職務経歴書を作ってきてください。何かご質問はありますか?大丈夫です。ありがとうございます。それでは、説明会までお待ちしております。連絡後、溜息が漏れた。はああ。

ストレスがたまりすぎて、左脇腹や、去年に発症した潰瘍性大腸炎が再発したのか、右側の腸も痛い。おまけに胃も痛くて、えれえ状態である。寝るときに息苦い。

女将は果たして本当に仕事を変えて手術費を半分出してくれるのだろうか。そう聞いたら、布団をかぶって塞ぎこんでしまった。剣呑な空気になった。

お互い、精神状態はあまりよろしくない。女将はこの間、追い込まれて言葉が出なかった時があって、病院に行こうかと話した。精神的な病になる前に距離は置こう、と話しているのだが。

午前中、歯医者の通院に出かける。右上の歯が痛むので、治してもらっている。めんどくさがる女将を、シュークリームで釣って、ついてきてもらった。この歯医者の待合室で、女将はドラえもんと、私は家庭教師リボーンを読むのがさいきんの楽しみだ。今朝、女将が獅子座のキャラクターを挙げていて、のび太が獅子座であることを誇ってきたところだった。ジャイアンが獅子座らしいと思っていたが、どうも双子座らしい。

女将が朝、ひじきとツナのパスタを、昼はホルモンうどんを作ってくれた。淡白だが、しっかり味がついていて、おいしい。女将の料理の質が変わった。レパートリーも増えてきている。

自分で言うのもなんだが、私たちは普段、仲がいい。いい方だと思う。だが、お金の問題がいつも水面下に潜んでいて、いつそれが爆発するかわからない感じ。移住費用は出すけれど、猫の手術費用は2人で出し合いたい。お互い持ちつ持たれつなんだけど。

お金をかんがえる

お金でこじれるのは嫌だが、お金はリアルだ。それがこの1年を通して感じたことだった。世の夫婦やカップルも、こじれの種はお金だろうか。それだけではないだろうが、生活となってくるとどうしてもお金はついて回る。相続問題も、店を閉めたのも、詰まるとこそこだった。お金で行動と心が制限されないくらい、お金の回りをよくしたい。心からそう思う。そのために新しいビジネスをやる。

お金持ちはお金が好きだ、とよく聞くので、ためしにお金を好きになってみた。拝金とまではいかないが、もっと素朴に好きになればいいのではないか。

お金を好きになってわかったことは2つ。感謝が欠けていたこと。時間の使い方が雑になっていたことだった。

例えば、女将と珈琲を飲むから、お供に炭酸せんべいカルルスを買うとする。今までははいはい、といって食べていたが、払った200円よありがとうと思うと、大切に食べようと思うのだった。自分の人生の、限られた時間と引き換えに得たお金、という事実に気づいてなかったのかもしれない。人生が疎かになっていた。

店に来てくれていたタクロー君というお客さんさんから、お金について教えてもらったことがある。お金はエネルギーだと。店をやっていて、もう少しお金があればできることが増えるのに、と何度考えたかわからない。珈琲豆もグレードの高いものを仕入れられるし、備品も内装もいいものにできる。誰かに会いにもいける。お金は行動力そのもののようだった。お金を、経験のために遣うようになってから、そう変わった。お金の使い方が雑というのは、時間の使い方が雑ということ。心を込めてお金のやり取りができるかどうか。

去年末に亡くなった祖母は、わたしたち孫のためにお金を遺してくれているはずだった。お金そのものは愛ではないが、お金で愛を表現することはでこる。愛はエネルギーだ。この考えは、タクロー君が言っていたことにつながる。

移住費用も、ネックになっているのは猫にかかる敷金だ。いろいろ問い合わせてみたが、不動産業者に仲介で取られるお金はかなり大きい。どうせなら、湘南移住計画の鈴木さんのように、この人なら、という方にお支払いしたい。人は人なので、不動産業者も千差万別だった。誠意ある人の仕事に大切なお金をお支払いしたい。

音源を作ろうと思って、河原をランニングした後に、ビートを作った。仕上げ切れてないものもあるが、4曲もできた。たのしかった。ランニングよりも、毒が抜けた。ああ、自分にとって大事な営みを忘れていたんだな。機材を揃えて、もう一度やってみようか。女将にラップしてもらいたいビートもあった。曲をつくっていると、人生に夢中になる。そういう日常を送ろう。

,
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。