湘南移住記 第五十七話 「都市のひずみ」

北浜の〈モトコーヒー〉でお茶をした後。

車で心斎橋筋を南下し、天王寺まで移動。ノセ君に教えてもらった〈YARD COFFEE〉は閉まっていた。ここは東京の〈Glitch Coffee〉の元スタッフが立ち上げたお店らしく、実際にグリッチの豆を扱っていた。女将にも呑んで欲しかったが、残念。

東京の中目黒の蔦屋書店で見かけたドイツのノートブックが欲しくて、あべのハルカスに向かう。

ゆがむ時空

そういえば、5月に店を限定で開いたとき、津山に移住した大阪の岸和田出身の女性が来られて、天王寺の話になった。あべのハルカスが出来てからは綺麗になったが、それ以前の天王寺駅は異空間だった。駅を降りてすぐ動物園があり、ホームレスとおぼしきおじいちゃんが昼からワンカップを煽っている。神戸の春日野道もそうなのだが、空間がぐにゅっと曲がっていて、そのほかのエリアとは明らかに空気感が違う。

思えば、津山にそういったエリアはない。津山駅裏の横山もかつて屠殺場があり、空気が重かったりするのだが、歪んではいない。

横浜には、近い空気の場所はあった。おそらく、都会にしかない現象だろう。都市のひずみ。生活層の違いによる、淀んだ何か。無理矢理に街を発展させようとして、忘れられた本質が、ある地区に堆積しているようであった。

あべのハルカスが出来たことにより、その空気感も一掃された。では、あのワンカップを煽っていたおじいちゃん達はどこに行ったのだろう。日本は、綺麗な部分しか見せようとせず、レースのカーテンで本質を隠しているだけかもしれない。しかし、薄いので、のぞこうと思うとすぐのぞける。

夕陽のおもかげ

心斎橋にあったスタンダードブックストアが天王寺にできていた。一階がカフェ、2階が本を売っている店舗。本の品揃えがとてもいい。もともと好きな店で、アメ村に行くと必ず立ち寄っていた。ワンチャン、例のノートブックがないかと思ったが、売っていなかった。

あべのハルカスは天王寺駅から直結しているはずが、入り方がよくわからなかった。あべのハルカスの近くには、庶民的だが賑わっている昔ながらの商店街があって、女将はこんなステキな商店街があるのにあべのハルカスいるのかなあ、と言っていた。

通りかかる学生は笑っていて、ニュースで観る吉村知事の悲壮感とはかけ離れていた。メディアは恐怖感を煽るが、実際にその場所に行ってみると、印象とかけ離れていることは、このコロナ禍でよくみかける。

このコロナ禍で、テレビ業界は潤っているらしい。恐怖感によって人々を煽り、利益を上げるというのは、人道的にどうかと思う。

天王寺駅に直結していた施設で、女将は香水を買う。あべのハルカスでは、高層階に台湾発のショップが入っていて、発酵豆と海老風味のラー油を買った。スパイスカレーに応用できる。高級な烏龍茶が売られていて、興味があった。思えば、女将と一緒になって以来、はじめて街でのショッピングだった。たのしかった。

あべのハルカスは2棟あって、もうひとつのウィング館では、アートの催しをやっていた。個が強くて、クセがある。屋上には開放されたスペースがあって、気持ちよかった。都市ならではの設計。風が心地いい。

買い物を終えて、東大阪にある大衆中華の店〈八戒〉に向かう。すでに、日は暮れて、建物と建物の間に、夕日がしのびこむ。かつて動物園があったあたりはきれいに整備されていて、おしゃれな店が立ち並んでいる。ひずみの面影もなかった。

ただ、足をひこずってあるく、異様なファッションのおばあちゃんがいた。歪みが残っていた。おばあちゃんは悲しく通り過ぎていったが、街の綺麗さとは裏腹に、取り残された人々はまだこの街にいることを指し示していた。

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