湘南移住記 第六十話 「出発の夜」

日曜日にでるつもりが、チケットを間違えて月曜日の夜のものを買っていて、出発が遅れた。せっかく遅れたので、行きたかった城西の〈かふぇ 花音〉に女将とモーニングを食べに出かける。

ここは、hatisの常連さんである杉山さんがよく利用しているカフェ。城西通りに位置しており、まるでお伽話のような庭が目印だ。妖精が幻燈に照らされたかのような店構え。

庭先にコーヒーのカスが干されている。店内は、ジャズが静かに流れていた。

モーニングは、トースト、オニオンスープ、卵の乗ったサラダ、苺のジャムにヨーグルト、そして珈琲。500円。ちょうどいい塩梅。珈琲はブレンドで、グアテマラのような苦味がした。

緊急事態宣言中は店を開けてなかったようで、私たちの後に入ってきた店の常連さんが、ひさしぶりじゃな、と威勢よくカウンターに座った。南海ホークスファンだというその人は、堰を切ったように野球の話を始めた。野球の話がしたくてしたくてたまらなかったのだろう。その会話の様子が、なんかじんわりと心に迫った。庭のコーヒーカスの使い方について話していたので、珈琲関係者ではないかと女将が推察していた。

最後の晩餐、というわけではないが、晩に女将がラーメンを奢ってくれた。商店街にある〈むらかみ〉。ラーメンはあっさりかこってりの醤油があり、こってりを選ぶ。女将は梅塩ラーメン。こっちの方がスープが透き通っていて、うまかった。岡山の〈一照庵〉でも、女将は塩を頼んでいた。私は濃い味ばかり選んでしまって、いけない。女将はから揚げを頼んだが、食べきれなかったので、持ち帰っていた。

ついに夜になった。出発の刻。女将が小さいお弁当を作ってくれた。移動手段はいつもの、深夜バス。

つばさくんが直してくれたクロスバイクを、吉田がバスで持ち込めないか、と言っていたので、添乗員さんに頼んでみる。すると機転を利かせてくれて、クロスバイクをバスに収納してくれた。ありがたい。もちろん、普通はダメなので、マネしてはいけませんよ。

バスで出発するとき、女将がいってらっしゃい、と小さくメールをくれた。ああ、ホントに行くんだな、と実感が沸く。

実は、出発前の日からそわそわしていて、落ち着かなかった。不安が首をもたげてじっとこっちをみている。同時に、反対方向から期待が光を放っている。

ここを乗り越えないと、私の人生は先に進めない。ここまで来るのも一、いや三苦労はあった。手持ちが少なくなり、1人での出発。想定外のことが起こりすぎている。だがもう、慣れてしまった。大事なのは出来事に対して、どう柔軟に対処していくかだ。不安もあるが、恐怖を乗り越えた先に、神様は幸せを置いているらしい。

車内は整っている。一路、どんどん東へ。今日は人が少なく、空間に余裕があったので、ゆっくりできた。女将とメールのやりとりをする。明日、天気は雨らしい。え。自転車を漕いで三浦に向かう予定なのに…。

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