湘南移住記 第六十三話 「吉田」

この移住記でもたびたび登場している吉田がブログを再開したようだ。最新の投稿で、私のことを書いてくれている。

お礼に、私も吉田省吾という人物について書こう。

レインボーでの分岐

彼の記事でもあったように、出会いは田町の喫茶店、レインボーだった。今は新庄村に移り住み、水路珈琲をされている竹内さんが経営していた店。私も足繁く通っていて、2人座れるカウンター席で隣合わせで話していた。親しみをこめてよっすん、と私は呼ぶようになった。もう7、8年も前になる。

振り返ってみると、レインボーのカウンターで話していた吉田は固まる前のゼラチンだったような気もする。

つまり、今の彼を彼たらしめているのは、その後移住した水俣での生活ということになるだろう。

水俣病。高度経済成長の代償として生まれた公害。誰もが目を背けたくなるような現実に、彼は正面から受け止めていった。

縁もゆかりもない土地に、水俣病に興味がある、という理由で移住というのはなかなかできない選択だ。奥さんを連れて行き、息子の風も生まれた。

夢多き青年、と当時の私を書いてくれているが、どちらかというと、私自身としては切羽詰まった状況ではあった。20代半ば、いずれは自分で店や事業を始めたい、と大まかな展望はあったものの、過程を埋める具体的なピースをはめることができず、まだ、霧の中で足元がおぼついていなかった。何かを見つけなければいけなかった。

Webデザイナーになる、何か作ることを仕事にできたらと目標を立てて津山を出たものの、自分が思い描くようなキャリアは積めなかったし、ただただ生活に追われていた。少額だが借金もしてしまっていた(ちゃんと完済しました)社会の底を這いずり回っていた。

神戸という土地を選んだのも、友達もいるし馴染みがあるコンフォートゾーンであるという理由からだった。

もし本当に仕事にしようとするなら、東京、少なくとも大阪に出るべきだった。門戸も広いし、自分を孤独に追い込んでおけば、後はやるしかない。甘い部分があった。

お互いに津山に帰って再開したとき、彼の内面や知見はとても豊かになっていたと思う。私は店をやる、という目標をつくり帰ってきたが、できた畑の彩りは違っていた。

学び

だから、丹後山アパートメントを通して、吉田には見たことがないものをたくさん見せてもらった。詩の朗読会のこと、つぎつぎに現れるユニークなひとたち、うさぎ!の勉強会、たくさんのライブ。

社会に順応しようとして、結局できず、頑なになってしまっていた自分の視野をほぐしてくれた。こんな在り方もあるのか。

お互いに特性が言葉の人である、ということも大きい。特に彼は米文学に造詣が深い。津山に帰ってまもなく、ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』をくれた。もらってすぐ取り掛からなったが、読んでみると面白かった。

性質の違い

もちろん、性質が違う部分もある。写真家の尾高さんが、彼を『家ごと動いている』と評したことがあって、そうかなあ、とその時は疑問だったものの、改めて理解できる部分がある。

つばさくんが場所のハードを作る役割だとするなら、吉田はソフトの面、その場所の空気感であったり、中身を規定する。だから、2人は二律背反で、軸が一緒なのだ。

私は好奇心の赴くままにあちらこちら行ってしまうし、一つのところに留まるのが苦手だ。

水俣病もそうだし、戦争をすごく気にしている、というところもすごい。ただ意外と政治的な意見を求めると、断言しないところもあって、それが彼特有のバランス感覚なのだろう。

もし特定の思想に傾くことがあれば、もっと偏った人間になっていたはずだ。それを避けていることが、ポップな彼らしい感性。また、詩に親しむ人格に繋がっている。

一度、吉田の仕事を見たことがある。木の仕事の見学に行ったとき、家より高い木にしがみついて、少しずつ、同じ動きをしながら登って行くのを見て、ああ、これはすごいなと感心した。自分にはどうもできなかったことだからだ。

私は「広める」のが好きで、彼は「育てる」のが得意なんだろう。彼はネットには否定的だが、私はネットでも伝わることもあると信じている。ブログを書き始めたことから、考えも変わっていくかもしれないが。

かなり長くなってしまったのでここまでにしておく。この移住記を読んでおられる皆様におかれましては、吉田省吾にぜひ興味をもって頂きたい。吉田は、一つの現象です。常に動いているので何か引っかかるだろうし、ブログものぞいてみてください。

性質が違うから、学ぶことが多った。移住の最後の最後まで世話になった。この記事を書いた。たぶん、よっすんが水俣に住んだという重大な選択を、俺も三浦でできたのだと思う。

得難き友人へ感謝と尊敬に代えて。出会ってくれてどうもありがとう。これからもよろしく。

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