湘南移住記 第八十話 「Tha Blue Herb 24th」

先日、札幌のヒップホップグループ、Tha Blue Herbがyoutubeで24時間にわたるライブストリーミングを行った。数ヶ月前にTwitterでアナウンスされ、ああ、そんなことやるんだ、という程度にしか思わなかったが、時代は変わったというか、ブルーハーブは私たちの予想を上回る動きをする。が、絶対に観よう、というまでのモチベーションは持てなかった。

その日の夜は残業で遅くなり、いつものバスの最終が終わって、三崎口駅から帰るとこだった。夜10時。三崎東岡行きのバス乗り場。私と同じく、仕事帰りであろう男女がぽつぽつと溜まっている。京急の終着駅である三崎口駅の夜は、昼の観光客の多さと相反して、役割を終えたおもちゃ、のような寂しさがあった。

1人の中年男性がスマートフォンを片手に、俺はあいつのことは嫌いだよ、と荒い口調で話している。疲れた心に響いてしまうので、ポケットのアイフォンを取り出して、自分の興味のある世界へ逃げ込んだ。YouTubeを開くと、たまたまTha Blue Herbの24時間番組のライブストリーミングが始まっていた。

そこからは劇的な時間だった。

ブルーハーブとの出会い

Tha Blue Herbが出会ったのは私が高校二年生の時だ。津山で唯一のTSUTAYAに、TBHRのコンピが100円で投げ売りされているのを見つけた。Tha Blue Herbの名前だけは知っていて、手に取ってみた。紙ジャケで、CGを使ったような、美しい写真が印象的なCDだった。裏には奥の院と見える写真があしらわれていた。タイトルは、『Only For The Mindstrong 』。心の強さのためだけに、と訳せばいいだろうか。改めて見ると、DJ KrushとC.L Smoothの名曲『Only The Strong Survive』をもじったのであろうか。

このCDを、高校生の私は本当によく聴いた。5枚のCDオートチェンジャーのコンポで。当時はまだブルーハーブだけではなく、Jun-Gold、Smash 4など、ヒップホップに限らず、札幌のアーティストの作品も収めていた。

特に、ANNUI DUB (THANK YOU VERY MUCH MY FRIEND) -UNIVERSAL LANGUAGE MIXという曲が好きだった。シンプルなギターのリフに、ハウスより遅いBPMで、心が昂揚するインストだった。ヒップホップを中心に聴いていたものの、自分が言葉が乗らないインストが好きだと気づき始めたきっかけにもなった。

ブルーハーブの楽曲は、時代は変わるpt.1とpt.2。pt.1は好きな曲だった。それが衝撃だともわからずに、何度も何度も繰り返し聴いた覚えがある。

やはりファーストが語られることが多いブルーハーブだが、『時代は変わる』〜『Front Act 』〜『Sell Our Soul』あたりの、トリップ感の強く、オリエンタルな音楽を私は好きだった。本人達も語っている通り、東南アジアを旅しながら、強烈なトリップを体験し、最もブッ飛んでいた時期。

この時期のO.N.Oのトラックは凄まじい。MPCでどうやってこの音を作ったのか、はたして想像もつかない。『Shine On You Crazy Diamond』を部屋にあったコンポで中音を強調して聴くととても気持ちよく、夜中に部屋で1人、あがっていた。

混沌をそのまま音にしたようなセカンド。歌詞カードを高校にこっそり持ち込んで、授業中によく読んでいた。Zornがインタビューで語っていたが、こういうアンダーグラウンドな音楽を聴いている自分にも酔っていた。その頃は東京の対立軸のことも知らず、Mummy-Dへのアンサーにも気づかず、ただドープな世界観の中に没入していた。

物語をさがすように

番組はグループの変遷を時系列順にライブ映像と共に追っていく形だった。開いた時、ちょうどSell Our Soulの特集をしていた。Sell Our Soulのレコーディング風景が流れていて、アカペラでBossが歌を吹き込んでいく様は、呪文を唱えているようにも見えた。

『路上』のリアクション動画をブルーハーブが観る、という企画も面白かった。『路上』はネパールのドラッグディーラーの描いた曲で、私たちの世代のヒップホップ好きでもよく話があがる。一行一行が緻密で、完成度が高い。

感動したのは、2004.12.24の大阪noonのライブ映像が流れたこと。トラックを変えた『あの夜だけが』。

この会場に、18歳の私はいた。初めてブルーハーブのライブを観に行ったとき。この時期のブルーハーブは宗教がかっていて、会場中がBossを求めていて、初めはフロアの左前側にいたが、もみくちゃにされ、気づいたらちょうど真ん中側にいた。このライブの前々月、ビーフがあったTokona-Xが急逝していた。Bossはその名前をシャウトしていた。

神戸のクラブに通いだし、ナゲッツさんという、タムさんの元相方のパーティーの誘いをお断りしていったLiveだ。あの時、俺はここにいたのか。なんだか、物語の中にいるみたいだった。

今回の配信を観るタイミングといい、ブルーハーブに関連することは、いつだって物語じみている。初めて鎌倉に行った時や、こないだの森戸海岸のイベントもそうだった。映画のように、タイミングが不意に折り重なる時がある。その瞬間のために、これからも生きていこう。物語を探すように。

そしてBossは最後の最後まで、私にメッセージをくれる。『やりたいことじゃなく、やれなかったことをやるんだよ』。ラップや音楽活動、自分の音源をまとめれなかったこと。店のことや会社をすること、多拠点生活は進んでいるが、大事なワンピースは進んでいない。やろう。やるぜ。

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