湘南移住記 第八十四話 「僥倖」

昨夜に引き続き、朝から雨だった。バイトは休みになった。雨だと客足が少ないので、休みになる。晴耕雨読みたい。

ジモティーを開くと、炊飯器を今日の11:00に取りに来てくださいとメッセージがあった。渡に舟、ちょうどいいタイミング。時間の余裕があったので、横須賀の物件も見に行くことにした。こちらもメッセージがあり、自由に見ていいということだった。物件を見てから、炊飯器を取りに行く。

三崎東岡から京急バスで三崎口駅へ。三崎口駅から電車で県立大学駅へ向かう。が、物件の位置を確認してみると、横須賀行きのバスに乗ったまま、衣笠あたりで降りてもよかったかもしれない。決め打ちするのではなく、柔軟な対応が必要と感じた。衣笠はこないだ自転車で見かけて気になっている。バイト先の料理長が若い頃、衣笠のもうなくなった喫茶店でブルーマウンテンを飲んだ、香りがよかった、と話をしていて、一度行ってみたくなった。

堀之内駅で普通に乗り換え、県立大学駅へ。横須賀にいく時は、なぜか県立大学駅で降りることが多い。単発のバイトもここだった。街中へ向かわず、坂を登り、山の方面へ。

昭和がホルマリン漬けになったような、懐かしい街並だった。ここも昔はたくさん店が軒先を揃えていたのだろうか。

気になっていた〈山の上ベーカリー〉さんはこの近くにあった。山なんだな、ここは。

物件は、ボロボロだが素敵な一軒家だった。岡山県真庭市の〈野辺の花〉というカフェを思い出した。久世という、私の母の故郷にある一軒家で、土日しか開けてない。庭からの景色が素晴らしく、記憶に残る場所。この横須賀の物件にも庭があって、お客さんにゆっくりしてもらえることが想像できた。

さらに良かったのは、1階と2階が離れていて、別々に台所とトイレがあったこと。これなら居住用と営業用のエリアが区分けされていて、営業許可がでる要件のはず。お風呂は一階にあるが、居住スペースを2階にすれば、猫たちともよく暮らせそうだ。

女将に写真を送ると、かわいいと言って、やはり〈野辺の花〉を思い出したそうだ。ここは、いいカフェになる。

内見を済ませて、次はYRP野比駅。いったん横須賀中央駅まで出て、快速で三崎口駅のくだりに乗り換える。電車の中で将棋アプリを指していたら、別方面の浦賀駅に来てしまい、引き返す。この浦賀トラップには気をつけなければならない。堀之内駅で乗り換える必要がある。

YRP野比駅改札前で炊飯器の引き渡し。優しそうなご夫婦が待ってくれていた。電車で向かいますと伝えると、わざわざ段ボールで包んで頂いた。奥さんが気をつけて帰ってください、と別れ際に言ってくれ、嬉しかった。やり取りはすぐ終わったが、もう少し話したかった。

近くの〈らぁ麺 Sungo〉という店で昼食をとる。ラーメン屋なのに、かわいい店構え。入口の手書きの店名がいい。

店内には肌が焼けた女性が2人。女性が切り盛りしているラーメン屋さんには、はじめて入ったかもしれない。レゲエが流れている。女性の感性らしい、おしゃれな店だった。

以前入った〈Tokyo Bay Fisherman Noodle〉で出されていた方がやっているお店だった。ラーメンも似ているが、こちらはスープに貝だけではなく牛骨を使っている。牛骨といえば、鳥取ラーメン。

この筍の盛り付けも、〈Tokyo Bay Fisherman Noodle〉に似ていたが、揚げワンタンに驚いた。中に蜆が入っている。これは美味かった。貝おこわというメニューを頼んだはじめてのお客さんだったらしい。ラッキーが押し寄せる。

帰宅。疲れて寝る。このまま三崎を離れてしまうんだろうか。起きて、寂しくなって近所を散歩する。もう、秋の気配がそこら中に始まっている。

家の目の前にある〈真福寺〉さんに寄ってみた。北原白秋の碑がある。かつて北原白秋は三崎を訪れ、穏やかな景色を前に、自殺を思い止まったという。確かに、ここの気候と、人の素晴らしさは、傷を癒やしてくれるだろう。

歩いていると、小さな子供を2人見かけた。自転車に乗ったお兄ちゃんと、それに走ってついていく妹。妹がある家の前で立ち止まり、「先にいってていいよ!」とお兄ちゃんに声をかける。その家からは別の子供の声が聴こえる。「なんか、声が聴こえる!」と妹は声を上げる。知らない子供の声を聴いて、友達になりたくなったのだろうか。

京急ストアに寄ると、ちょうど米が2割引になっていた。5キロで1500円。5のつく日は米が安くなるらしい。ストーリーのように出来事が連鎖していく。しかも、カセットコンロが直っていた。腹はへっていなかったが、お米を炊いた。葉生姜ときゅうりを細く切って、醤油をたらし、たらこと食った。美味かった。

ほんとに、物語のように出来事が起こり続ける。この流れのままいってみよう。来週はついに女将がこちらにくる。たのしみ。

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