湘南移住記 第八十八話 「志」

横須賀市の保健所に行った。逸見のあたりにある。申し 込をした物件が、店舗兼住居として使えるか確認をした。

物件を店舗兼住居として使うにはいくつか条件がある。①店舗スペースと住居スペースが分かれていること。②厨房のシンクが2槽以上あり、区分けされていること。店舗用と住居用と分かれていること。③手洗い場が従業員用とお客さん用とで2つ用意されていること。

この要件は47都道府県で変わりはないが、三浦も横須賀も津山よりチェックが厳しい印象だった。

今回の物件は平家。③はクリアしやすい。①、②は区画の問題もある。この物件を店舗兼住居として使うには、かなり渋られた。

担当する人の心象にも関わってくるようで、トイレは1つでいいと言っていたのが、最後には2つ欲しいと言い出したり、規定というより安心が欲しいようだった。つまり、駆け引きの要素も出てくる。トイレを新しく設置するのとなると30万円以上はかかる。それは避けたい。

話し合った結果、同じ建物で住居と物件は両立しづらい。住居と店舗を別々に借りる方向にした。

不安

ひとつは横須賀の富士見町、もうひとつは東逸見町。駅に近いのだが、かなり山の上にある。が、景色はよく、軍港が見渡せた。店にするにはここがいいだろう、と女将と話し合った。しかも、家賃が安い上、1年間のフリーレントがつく。1年間、家賃がタダになるというわけだ。どちらも申込をした。

仔猫が産まれたあとに申込をした。猫5匹となると、もうひとつ家を借りたほうがいい。結果的によかったのかもしれない。

だが、なんだか怖くなってきた。住居コストが2年目から倍かかる。これから女将と結婚するとして、式や出産の費用も稼がなければいけない。計算すると、店舗で1日50人の来客が必要になる。はたして俺にできるのだろうか。しかし、この道しかない。引き戻れない。

三崎からの交通費往復1000円を浮かせるため、自転車で2時間かけて行っている。久里浜まで出て、野比海岸から帰る。津久井浜あたりで、仲秋の名月を見かけた。

夜だというのに、月は煌々と輝いていた。あまりの美しさに、夜の海岸に人が集まっていた。カフェの店先からのぞく人もいた。月と地球は絶妙な位置に配置されていて、水面に映る月光が自分まで伸びている。海岸にある巨大なテトラポットが、なんと不恰好なのだろうと感じた。人間は自然に還るべきだ。

翌日。東逸見の物件の契約書がgmailに送られてきたので、三崎のファミマへネットワークプリントで印刷しに行ったところ。昼過ぎなのに〈あるべ〉に暖簾がかかっていた。入口の前にレアチーズケーキとドリンクセットが500円と書いてある。トライアルキッチンだ。のぞいてみた。

すると、以前お会いした〈たべことや みなと〉のあかりさん、かえでさん姉妹がいた。昼食をとっていた。横にお邪魔してお話をさせてもらった。

ひさしぶりにホロスコープを見させてもらった。今日のトライアル、〈ねこやなぎ〉のはるかさんも占うことになった。

3人とも、三浦が地元ではないとのことだった。なんの因果か、飲食店をする、と同じ志を持った人間が三崎に集まって一同に会す。確率論的にすごいことではないか。志が持つ力だろう。レアチーズケーキは美味しかった。

その帰り、田坂広志さんの講演の動画がふと飛び込んできた。田坂さんは病気を患い生死を彷徨った経験から、過去や未来に心のエネルギーを費やすことをやめたという。過去を悔いるのも、未来を憂うのも、心のエネルギーを莫大につかう。私自身も振り返ると、存在しない過去や未来にばかり意識がいっていた。現実と、自分自身に目を向けていたかどうか。

やってみなければわからない。また、今回のことも、いままでうまくいかなかったことも、自分を磨く機会だった。私は一つのことに執着しすぎてしまう。学んで、きっちり手放そう。未来に対してはしっかり準備しておく。そして、今日一日を全力で過ごせているか。本物の志を持てば、そこに尽きる。

うん、やろう。人生を拓くのは自分自身だ。その上で、みんな助けてくれていた。私自身が道を切り拓く。導いてもらっている。

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