湘南移住記 第九十話 「Learn」

24歳の頃。私は津山国際ホテルで働いていた。この時の私は頭が混乱し、仕事が出来ていなかった。毎日どやされていた。働くのが怖かった。

そんな日々を過ごしている内、私が働き出して一年後、重年という男が入社してきた。

しげちゃん

重年は偶然にも私と同じ神戸学院大学の出身だった。大学在学時に1人も友達ができず、伊川谷のブックオフで4年間ずっと漫画を読んでいたという。なので、彼は面白い漫画をよく知っていた。

重年は最初、鼻につくような態度があって嫌だった。これはお互い自信のなさから来ていたと思う。私もプライドが高い一方、卑屈な面があるので、今にしてみると、とっていた態度にも気持ちもわかる。

そのうち、他の同僚や先輩と飲みに行くようにもなって、しげちゃん、おしげなど呼ぶようになり、仲良くなった。漫画も貸してもらうようになった。普通にいい奴だった。

しげちゃんも仕事に苦戦していた。ホールに行ったり、フロントに行ったり。私もダメだったが、しげちゃんも大変だったろう。

振り返り、ということで彼が言っていたことをふと思い出した。「僕には経験が足りないんです」という言葉。

どういう会話の流れなのか、他の人と話していてたのが耳に入ったのか定かではない。ただ、その言葉を聞いて、経験ではなく、いままでの振り返りがたりないのではないか、と私が感じたこととセットで記憶している。

学びの

月亭邦正は読書家だが、島田紳助に「お前は学んでないねん」と言われたことがあるそうだ。ガキの使いのロケで邦正がダダスベリした日の帰り、その失敗をごまかそうといつもよりはしゃいでいた邦正が松本人志に「俺でも今日はこうすればよかったなっていうのは2つ3つ考えるで」とピシャリと締められたという。カジサックチャンネルで放送作家の高須光聖が語っていた。

私が神戸元町の広告代理店で働いていた時。デザイナーの場所と同じフロアで働くので、毎日デザイナーの部長や副部長の挨拶を聞いていた。ある時にデザイナーの副部長がこう言っていた。「帰りの電車で、こうすればよかったということを、一つか二つ見つけるようにしてください」と。

同じベテランのデザイナーでも、上役になっている人とそうでない人がいる。その違いはなんなのかと考えると、その習慣があるかないかの差ではないか。

松本人志はもちろん才能があった上で、こういった日々の努力を惜しまない点が偉大だ。修正点を見つけるのが、人の倍あった。これが1年2年、10年と続くとその差がはっきり現れてくる。

三浦市で働いていて気をつけているのはこの点だ。今までは働いて、自分の時間に仕事について考えるのが嫌だった。向き合っていなかった。だが、その仕事で自分が生活が成り立っている。仕事そのものについて考える必要もあるだろう。

珈琲の仕事を始めて、時間やお金をつかって、他の人の仕事を見にいくようになった。学びが能動的になってきている。

ただ、日々の仕事からどれだけ修正点や良かった点を見つけて、改善していくか。同じ過ちを犯さないようにするのか。そこに、日々繰り返す意味の大きさが見えてくる。単純に、自分がよくなるのは嬉しい。

なぜ生まれてきたか

このところ、YouTubeでペルーの民族儀式アヤワスカの体験記を見ていた。共通しているのは魂の存在があるということ。なぜこの世に生まれてきたかというと、学ぶために生まれてきたのだと思う。

私はことさら、過去を悔いたり執着する傾向にある。後悔を手放すためには学ぶ必要がある。過去の失敗を第三者的に見て、分析し、よりよい学びを抽出する。

ある元プロサッカー選手が、レアル・マドリード所属の久保建英選手を見ていると学びがとても速いという。つまり、濃厚な経験をしているということ。プロから見るプロはそうなる。実際、久保選手は課題であった守備面を改善し、マジョルカで活躍している。

私も神奈川に移住して、よりよい経験をするために、学びの純度をあげていかなければいけない。過去の失敗を見るには恥ずかしいとか、嫌な気持ちになるが、感情を交えずフラットに見る術を覚える。

しげちゃんも一足先に結婚して、子供ができた。ホテルはやめて他業種で働いているらしい。どういう成長を遂げているのだろう。いつか再会したときに、お互いの歩みを誇れるようになっていれば。

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