湘南移住記 第九十九話 「関係」

9:30発、大阪梅田行きのバスに乗った。神戸時代はこのバスをよく利用したものだった。津山から三宮まで直接の便が出るようになったが利用者が少なく廃便となってしまった。なので三宮から山﨑まで行き、そこから津山まで乗り継いで帰るようになった。

車内には、私の他に女性が2人いるだけだった。シートを倒し、ゆったりできる。大阪まで3時間は、改めて考えるに充分な時間だった。高速道路からのぞく、山々の風景を見る。

結局、女将とは別々に暮らすことになる。それぞれの目標に向かって、というお膳立てになったが、どこか違和感も残っていた。

反応

私が不安になり、津山に帰ろうか、と相談しても、女将はそっちにいて活動したほうがいい、と言う。私がブレているのを矯正してくれているのだが、何かが抜け落ちている気がした。移り変わる景色と共に、思考も進む。

女将が資格を取って、エステサロンを始め、上手くいった。では、その先はどうする?と聞いたら、津山と神奈川の行き来がしたい、と応えた。

私は女将と猫たちとふたたび一緒に生活できることを夢見て、ここまで頑張ってきた。それほど、女将と猫と住んだ1年間はわたしの人生で幸せだった。

だが、女将は私との生活を望んでいるか?

その問いに、答えがイエスとは言い切れない。もっと言えば、本当に好きなら、とっくに神奈川に来てると思う。女将には女将の事情があるのだが、もし私が逆の立場だとしたら、そうしている。

つまり、今、私と女将で気持ちの温度差があるということ。少なくとも同じ着地点を見ているわけではない。

それでも

女将には、もし別れることになっても、女将の夢は応援する。南町の家も店も無償で使ってくれていいと、伝えている。それほど今の変化は女将にとって重要だ。火曜日にはhatisを開けてくれることになった。新メニューの提案もしてくれる。以前にもしていてくれたが、具現化のスピードが段違いに早くなった。私も女将に負けまいと、早く横須賀の店を開きたい気持ちになっている。

お互いに個人事業主になって、拠点をそれぞれ持ち、協力しながら競い合う。それも一つの在り方かもしれない。

私は、女将と猫といっしょに生活したかった。今回の話し合いで、私の中の気持ちの大きさに気づいた。好きというよりは、愛というか。女将の成長がなにより嬉しい。

だが、諦めた。女将の気持ちはそこではない。結婚は考えていると言ったり、今はその気持ちではないと言っている。愛だとしても、気持ちが一方では成り立たない。結婚ともなると、2人だけの話ではなくなる。

お互いに向き合って話し合ったとき、女将は私との関係を引き伸ばしたいところがあった、と言っていた。だから3ヶ月も来れなかった。申し訳ないと。

そして今、私も同じことをしようとしている。

この関係は、いいと言えるのだろうか?

それとも、新しい関係ができつつあるのか。どちらにしろ、穏やかで、何気ないあの日々が戻ってくることはないのかもしれなかった。そう思うと、涙が溢れそうになる。だが、時は移り変わるのだ。ちょうど目の前のバスの景色のように。

店を開けてくれて、27日に引っ越しを手伝いに神奈川に来てくれる。

バスからの景色は次々に移り変わって、大阪へ向かっていた。一度山﨑のインターに降りて、再び高速に戻る。津山行きと、大阪行きの分岐点。もちろん、バスは大阪行きを選んだ。その時に私は、もう引き戻れないだろうなと直感で感じた。

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