湘南移住記 第123話 「アストラッド」

飼い猫のアストラッドが年末、息を引き取った。原因は横隔膜ヘルニア。家出していた時に事故に遭っていたようで、心臓が横隔膜の横まできていた。

以前、この日記にも書いたが、手術代が30万円必要だった。ちょうど、私が貯めていた引っ越し代と同額。

結果論になるが、移住の時期を遅らせて手術を優先すればよかった。

女将とは神奈川に来てお金を貯めようと話していた。津山は給料が低いので、貯めるのが大変な上、仕事を見つけるのが難しい。

神奈川ならお医者さんもたくさんいるだろう。と、移住を急いでいた。きっかけになった遺産相続で親族に辟易していて、早く津山を出たかった。思い返せば、逃げだったのだろうか。意地にも見栄にもなっていた。

結果、アスの命を失うことになった。

小さな家族

アストラッドを私たちはアスと呼んでいた。コロナの最初の危機の年に津山の鉄板BARりょうさんから、2匹の子猫をもらった。ケンティというhatisの常連さんが、地元の奈良に帰る時、りょうさんの店に女将と飲みに行った。

女将の足元をうろつく灰色の雄猫がいた。女将がたいそう気に入って、連れて帰ることにした。もう1匹、かわいい白い猫と目が合って、その子をもらうことにした。もちろん、アス。雄猫はリプニツカヤと女将が名付けた。

リプとアスは兄弟で、私たちの間ではリプが兄という設定だった。来た頃は階段の登り降りもできないほどちっちゃかった。2匹ともカバンに入って、女将と私の帰りを待っていた。

リプは寡黙な長男肌だったけど、アスはおしゃべり。よく女将ににゃあにゃあと話しかけていた。明るくて、優しくて、よく怒る子だった。大好きだった。

猫と暮らすようになって、女将との関係も落ち着くようになった。店を一時期閉めて派遣で働き、女将も働き始めたので、お金も安定してた時期。私たちも次の段階に登れたと思った。

夕方6時過ぎ。ご飯できたよと女将の声がする。一階に降りる。猫たちに餌をやる。みんなでご飯をたべる。テーブルで今日あったことの話をする。

アスは天井の梁を歩くのが好きだった。危ないよ、降りておいで、というけど、自慢げに私たちを見下ろしてた。ソファーで女将と笑いながら明日を見上げていた。

夜は2階の布団で一緒に寝る。アスが大きくなったときは、服を置いてある棚で寝ることが多かったかな。でも、私が布団に寝ると、ちょこんと私の上に乗ってきた。

ごめんよ、アス。だめなお父さんだった。早く手術してあげればよかった。苦しかったろうになあ。

紛れもなく、私たちは家族だった。生活は大変だったけど、本当に、本当に幸せだった。気づくのが遅かった。

マーレとアスの件があって、正月以降、女将と連絡がつかなくなった。意見やはなしの食い違いがあった。女将は私が猫より優先してほしいと思い込んでるが、そうではなく、そもそも私から気持ちが離れているのではないかと言いたかった。

でも、もう遅い。なにもかも。自分の意地を通した結果、多くを失った。

最後に直接会って冷静に話し合いたいが、それも叶わないかもしれない。

神奈川に出て半年。南町にみんなで住んでいた時の幸せを、痛いほど思い返していた。女将が来るといってこれほど来ないとは思わなかった。いつしか、またみんなで暮らすことが目標になっていた。

ありがとう。アス。アスの魂がちょこんと肩に乗って、そばにいてくれてると思って、前に進むよ。ありがとう、人生を与えてくれて。

アス。少しの間だけど、一緒に暮らせてよかった。アスは幸せだったかい。ヴィルとミウも、きっと元気だよ。りぷが面倒みてくれてる。お母さんが、世話してくれているよ。

俺が間違っとった。悔いてもあの時には戻れん。この選択がよかったように、俺がよく生きにゃあ、アスが報われん。

家族や、だれかと暮らしてるみなさん。当たり前を当たり前と思わず、幸せに大事に暮らしてください。

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