湘南移住記 第127話 『解放』

仕事場の黄色いカーテンからちらっと外が覗く。日中、光量がかすかに増した。大寒を迎え、寒さが一段と厳しくなるが、春の兆しも見え始めた。仕事終わりも日が暮れなくなった。

津山だとまだ冬真っ盛りで、Instagramのストーリーでは雪の積もった画像がまわってきた。津山に比べると、湘南はあたたかい。

No.13

〈No.13〉がオープンした。朝6時、出勤の途中に店に寄ると、朝3時から珈琲を焙煎している野口さんがいた。店が寒く、焙煎機が温まるまでに時間がかかったそうだ。

仕事終わり、晩の6時半に店に立ち寄る。開店初日にも関わらず、50人ほど来店して、珈琲豆はほぼ完売しとのこと。すごい。

野口さんを見ていて、自分の甘さを痛感した。津山では持家で家賃もかからず、のんびりやっていた自分。物件を借りるとなると大変だ。過密なスケジュールで開店までこぎつけていた。なんと私は恵まれていたことか。

お金周りをよくする



商売のプロにならなければいけない。知識や先見の明も必要だが、まず根性。闘っているかどうか。

女将と私の間に、いつもお金の問題があった。私に限って言うと、去年の相続問題もそう。

お金がすべてではないが、いつも両肩にのしかかってきた。お金周りがよければ、すこしでも貯蓄があれば、女将を傷つけることもなかった。

hatisの営業日数を減らしてでも、女将と猫との暮らしを安定させるという選択肢をもっと早く取っていれば。

離れて気付いたが、あの暮らしがどれだけ自分にとって大切だったか。

やりたいことを天秤にかけても、優先することができるくらいに。

お金に関する考え方を、切り替えるべきだった。

野口さんも、家族がいながら珈琲屋を始めている。

まだまだだわ、俺。

しあわせ

丹後山アパートメントで学んだことは、だれかと、ごはんをつくって一緒に食べるだけでも幸せ、ということだった。居酒屋でなくても、豪勢なレストランでなくても。

それが大切な人なら尚更だった。

人間って、そういうものだと思う。私も含め、みんな見栄や欲目に振り回されすぎている。

なりたい自分になることも、夢を追うのも、もちろん幸せ。でも、たったそれだけの小さなことで人は充足できる。

ご飯をつくって、同じテーブルで食べて。今日あったことを話す。猫に水と餌をやる。子供が出来てたら、もっと幸せだったろうな。

亡くなった私の父も、幸せだったのだろうか。だったのかなあ。

父は最後に、社会の最小構成単位は家族だと教えてくれた。横須賀にはたくさん家がある。その分だけ、大変さと、幸せがあるのだろう。

女将は私のことを想ってくれていた。離れて不安になっていた私が、間違っていた。ただ単純に、信じれば良かった。

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