観音崎公園の先で

横須賀に越してから、三ヶ月。状況が落ち着かないにしろ、すこしずつこの港町に暮らしが定着し始めた。

海風の街の歴史

三浦から移る前に、長らく住んだ神戸に似ている、とも感じた。通り過ぎる海風が、神戸駅あたりの空気感を思い出させた。

だけど、やっぱりちがう。横須賀は横須賀で、独自の歴史と風土を持っている街だった。

例えば、私が住んでいる富士見町。今は店も少なく何の変哲もない住宅街だが、以前は赤線だった安浦町に通う上流階級の人々が住んでいると聞いた。

変わった駅名だな、と気に掛かった駅の名前は安針塚。徳川家康に仕えたイングランド人、ウィリアム・アダムス、日本名・三浦安針を祀った墓だという。

織田信長に黒人の部下がいたことは有名だが、鎖国していた江戸時代に、家康がイングランド人を従えていたことに驚く。

横須賀は、街のそこら中に歴史がある。

街の成り立ちや歴史に対して、無頓着だった。私が生まれ育った岡山県津山市は、織田信長の近習だった森蘭丸の親族が治めた城下町。だが、それ以上のことは知らない。

縁もゆかりもない横須賀に越してきたので、横須賀のことを知りたい。そういう欲求が強まってきた。

ある日、海岸へ

特に用もないのだが、ある晴れた日曜。店の改装をさぼって浦賀方面に出かけることにした。富士見町からは、ちょうど真東の方向にあたる。

横須賀海岸通りをひたすら東に進む。リビング横須賀やブックオフ堀ノ内店、ドンドンウエンズテイでよく行く生活圏内だが、それ以上はあまり行ったことがなかった。

進んでいくと、漁船の乗り場が見えて来る。漁師さんの存在自体が驚きだった。山育ちからすると、ホントにいたんだ、と、宇宙人を発見したようなかんじ。

馬堀海岸は整備された道で、散歩するのによさそうだった。犬を連れて歩く人、ランニングをする人。年配の方が多く見受けられた。世間のコロナ狂騒が他の世界のことような穏やかさだった。

地図上で気になった、〈横須賀自然教育園〉に立ち寄ってみた。山路を登り、横須賀市立馬堀中学校の先にあった。

馬堀中学校のプール

戦争の跡

施設内には建物があり、中学生くらいの女の子が勉強している。森のようになっていて、三浦半島では珍しい植物を保存しているそうだった。シダが天からの光を受けていた。三浦半島はカラッとした気候なので、湿度の高い場所に群生するシダを見るのはめずらしい。

ここは第二次世界大戦時の重砲兵学校跡だという。当時の跡ではないか、と思わしきコンクリートの建物がいくつかあった。

米軍が駐留している横須賀に来ると、嫌でも戦争を意識せざるを得ない。浦賀にも、いくつかの砲台の跡が残っている。

この施設でも、かつては少年たちが大砲を撃つ訓練をさせられていたのだ。

平和の祭典であるオリンピックが北京で行われている裏で、ウクライナ情勢が緊迫している。人間はまだ、戦争を克服することができない。戦争が起こらないよう、私たちひとりひとりが、戦争をなくすように意識して、生活する。

走水のあたりに来た。一本奥の道に入ってみると、地の生海苔を扱っている店が多い。私が大好きな平坂のラーメン屋〈魚焚〉も生海苔が美味しい。地物にちがいない。

汐入の〈カギロイ〉の松田さんに勧められた〈かねよ食堂〉に行ってみるが、満席で予約がとれないようだった。コロナそっちのけで繁盛している。店を開けても人が来ないという私の心配は杞憂なのではないか。

走水の曲がりくねったカーブを越えて、左手に爽快な海が見えてきた。船がいくつかある。走水港だ。防衛大学校の巨大な敷地が反対側にある。

気持ちのいい緑面と、均整の取れた長方形の連続。山本理顕による設計だ。横須賀美術館にたどり着いた。目の前に美しい観音崎海岸が広がっている。

週末で、家族連れが多い。イタリアン・レストランも併設されていて、ギャルソンベストを着た給仕が、列に並ぶ客を案内していた。

富士見町から横須賀中央近辺にはビーチがない。この辺りは海に山に豊富な自然がたくさんある。

やさしさのある場所へ

美術館から出ると、ある家族が子供さんの写真を撮っていた。撮り終わるまで待っていると、お母さんからありがとうございます、とお礼を言ってくれて、「どこから来られたんですか?」と訊かれた。

そこからお話ししていると、このご家族はいま東京に住んでいて、浦賀にセカンドハウスを借り、週末をこちらで過ごしているようだった。子供さんが磯遊びが好きだから、ということだった。素敵な感性。

東京は緊張感がある。みんなが、こういう優しさのある場所に住んで、気持ちよく暮らせればいいのにな。

ご夫婦に、横須賀に移ったらいいじゃないですか、と言うと、今は東京にいます、という回答だった。だけど、優しそうな方たちなので、いずれこちらに来るだろう。

浦賀だと、物件も安い。五百万円以内で購入できる中古物件もある。YouTubeには、一万円で家を買って、直して暮している人もいた。

昨日の日記にも買いたが、それから〈Two Star〉さんで、ポテトチップスとチキンがはいったベーグルを食べた。ジョッキのようなコーラも。バイク好きの方がら集まる店。行きがけは、サイクリングをしている人もよく見かけた。

観音崎のあたりは、湘南に負けず劣らずの美しい自然があった。そしてなにより、人が優しい。Twitterでもこの辺りに住んでいる方にお声がけ頂いた。

この辺りに移住する人が増えて、素敵なお店が増えたら、湘南のようにいい場所になるだろうなあ。

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