CREIL とヘッセ

ヘルマン・ヘッセの本を、ひさしぶりに手にとった。『旋風』という、存在すら知らなかった短編集で、三春町の古本屋で見つけた。

ヴュルテンベルク出身であるヘッセは、私にとって大切な作家だ。10代のころ、『青春放蕩』を読んで感動して以降、人生の節々で彼の作品と出会った。多数ある作品リストを読み切るのがもったいなくて、少しずつ読むようにしている。

道をすこしずつ楽しむ

CREIL


CREIL(クレイユ)は東京都町田市つくし野にあるカフェ。前々から気になっていた場所だった。

自分のカフェの内装を作り込みしなければならないが、どうも完成図が頭に思い浮かばない。

インスタで見つけたクレイユは、素晴らしいカフェだとすぐにわかった。町田まで、ヒントをもらいに行くことにした。

京急県立大学駅から横浜駅へ。JRに乗り換え、長津田駅へ。グーグルでは、片道1時間ほどかかると案内された。

JR横浜駅の4番ホームから八王子駅方面へ乗ったつもりが、気が付いたら蒲田駅に来ていしまっていた。東京駅方面に向かっていたのだ。

アプリで将棋を指していて気づかなかった。四間飛車が得意な人に、右四間をぶつけようとしたが、角交換から腰掛け銀の様相になり、飛車を4筋から突破して勝ち切った。いい試合だった。

東神奈川駅まで戻り、ふたたび八王子方面へ。今度は間違えなかった。長津田駅で降りる。

時間は午前11時。6月の末、快晴。蝉が泣いている。群馬では40度を超える猛暑日もあったようだ。映画に出てきそうな青色の空だった。

長津田駅周辺で昼食を済ませようとしたが、まだ店は空いておらず、あきらめた。スーパーでオリオンビールの廉価版を買った。沖縄工場から出荷されていることが強調されていた。

クレイユは12:00にオープンする。時間があるので、オリオンビールを飲みながら、歩いてつくし野駅に向かうことにした。

途中、在原業平が祀られている〈大石神社〉に寄った。旧大山街道沿いの、坂を上がった所にある。神石があったらしい。時間が止まっているかのような空間だった。

坂の上から旧大山街道をのぞむ

〈ブーランジェリー・ニコ〉というパン屋で、ポテトフランスを買う。

ポテトフランス(198円)

ようやく店の前までたどりついた。平日のオープン前にも関わらず、既に2人の女性が並んでいた。どちらの女性も日傘とメガネをしている。私の前の女性は、花がプリントされた日傘をさしていた。強い陽光に花が照らされる。

オープンの時刻になると、店内から男性が出てきた。ヨウジ・ヤマモトのような黒の服を着ていた。いでたちに、感性が滲み出ていた。

店の前の様子

自分自身であること

薄暗い店内に通される。クーラーがよくきいていた。


1人席が5つ。2人席が1つ。フランスの古い調度品をあしらった内装。シンプルだが、洗練され、奥行きのある空間。喫茶店という表現をしているのだな、と感じた。

私と2人の女性が席につく。店主の男性が、順番に、水とメニューを置いていく。私が最後だった。メニューを見て、先に頼もうとして、スイマセン、と声をかけた。すると、

「ウチはマイペースにやっているんです」

と店主さんに断られた。

しまった。この人は淡々と仕事をしていた。この店はこの人の世界だ。それを崩してはいけなかった。時空を越えたこの空間に、急いてしまっている自分を恥じた。

順番を待ち、メニューを注文した。『大地のように』というネルドリップの珈琲と、レアチーズケーキを冷やした氷菓子を頂くことにした。待ってる間、花の日傘が販売しているアンティークの皿を机にならべて確かめているのを眺めていた。厨房の奥から店主さんが、『テーブルに並べてもいいですよ』と促したからだ。優しい人だった。

待っている間、ヘッセを読んでいた。三人のうち、最後に私がはこばれてきた。

『大地のように』の説明書きに、瞑想的な深煎りのネルドリップと書かれていた。店自体が瞑想的で、独特の時間の流れを持っていた。

インスタを見ると、店主さんはカウンセリング的なセッションもやっているようだった。この人は訪れる人の心のために喫茶店をやっているのだな、と理解できた。

私は自分の店づくりで、お金面のことをよく考えてしまっていた。別れたパートナーとも、金銭面が課題だったからだ。

しかし、根本ではそうではない。来てくれる人の心にどう寄り添うか。その核を外してしまっていた。

店主さんのインスタには、一度きりの人生、思考ではなく、感性に基づきましょうという旨の文章があった。

クレイユのクオリティが、力強い説得力を持っていた。

私が読んだヘッセの『旋風』に、愛していない仕事をして、心が麻痺し、郷里の自然に触れて、力を取り戻すという描写があった。

体調を崩して、庭仕事に癒されたことを思い出した。

店内には、静かにharuka nakamuraが流れていた。なんだかわからないが、泣きそうになっていた。店主さんのように、自分の感性に素直に生きれたら。いや、気づいたのなら、そうしよう。

ヘッセとクレイユの店主さんの生き方がリンクして、かけがえのない経験になった。行く価値のあるお店ですので、みなさんもぜひ訪れてみてください。

CREIL(クレイユ)

〒194-0001 東京都町田市つくし野1丁目28−6

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